クイージの美郷支店では、イノシシ肉を使った缶詰の製造・販売を2016年4月からスタートしました。
缶詰は常温保存可能で日持ちがよいことから、生産量が安定しない野生鳥獣肉の加工品として優秀だと思います。
美郷支店がある島根県邑智郡美郷町で処理しているイノシシは年間で約500頭。処理したイノシシのほとんどは精肉となり、都市域のレストランに出荷されます。缶詰の原材料となる肉は、レストランに出荷しない部位で、その肉量から計算すると、製造可能な缶数は「約20,000個/年」程度。稼働日を年間200日とすると、100個/日の製造缶数となり、一般的な缶詰工場としては非常に少ない製造量です。
缶詰を製造するには、外部委託製造:缶詰製造を請け負う工場に原材料を送り、製造を委託する方法と、自社製造:自社で缶詰製造を行う方法があります。
自社製造は設備の導入費用がかかり、製造のノウハウや品質管理手法も先行事例が少なく安定製造には時間がかかります。また年間20,000個を製造する小規模な設備となるため外部委託製造に比べると作業に人手がかかります。したがって、1缶あたりの製造原価(原材料を除く)は外部委託より高くなりますが、今回のジビエ缶詰へのチャレンジでは自社製造を選択しました。
導入や運用にかかる初期コストや手間と引き換えに、大規模な缶詰工場ではできないイノシシ料理のレシピを缶詰で実現することができました。
比較項目 | 自社製造 | 外部委託製造 |
---|---|---|
初期コスト | 製造機械の導入費用がかかる。 | 委託先と試作段階でのコストが高いが、製造機械は不要 |
レシピ |
細かい調整が可能ではあるが、調理スキルや管理スキルを上げないと、同じ味の再現が難しい。 料理を缶詰に手詰めするため、具材を大きくカットすることが可能である。 |
委託先の調理設備や缶詰製造機械のスペックによる。 特に、サイズの大きな具材は缶詰に入れるのが難しい。 |
製造コスト | 導入機械が小規模なため、自動化を進めることができず、製造コストは高くなる。 | 1回の製造単位で作る缶数を大きくすることで、コストは下がる。 |
製造缶数 |
小規模な機械のため、1回の製造単位で作る缶数は小さい。 少量多品種製造には向いているが、大量生産はできない。 |
数千個以上が最小製造缶数となる。委託先にもよるが、月あたり数万個以上の生産が可能 |
その他 | 製造工場を地域内に作ることで、地域内雇用が生まれる。 | 委託先に支払うコストは、地域内に還元されない。 |
年間20,000個程度の少量缶詰生産を行う際の自社製造と外部委託製造の比較
製造開始から約2年が経過し、年間20,000個の製造・販売目標に関しては達成の目途がついてきました。
以下のサイトでも販売しています。ぜひ、ご購入をお願いします。
2年間のチャレンジを経て、缶詰製造を軌道に乗せるためのポイントは以下の4つと考えています。
1.売れない部位を使うこと
売れる部位は、精肉として都市域のレストランを中心に販売しています。むしろ、この部位は足らないほどです。缶詰の原材料肉は、精肉として売りにくい部位を使用します。1頭のイノシシ全体をもれなく利用することで、収益を上げる目的があります。
2.地域に製造ラインを作ること
地域の雇用や、地域での販売を考えると、製造ラインが町内にあることは非常に有利です。また、イノシシ肉の品質の季節変動や雌雄等の個体差などによる細かい調整も地域内に製造ラインがあるおかげで可能となります。
3.食肉生産量が一定以上であること
事業にする場合、ラインの稼働率を上げなければ収益性は確保できません。
そのためには、そもそもの食肉生産量=処理頭数が必要です。ちなみに、年間20,000個の缶詰に必要な原材料肉の量は、約2,000キロとなります。
4.販売先の確保
先に原価を計算し、商流ごとに販売価格の設定や製造予定量の共有などを行い、販売パートナーを製造開始前に確保しておくことが重要です。製造開始してから販売先を探すのは遅いと考えています。
常温で扱えて、賞味期限の長い缶詰は、生産量が野生鳥獣肉の加工品としては優秀です。他の地域においても、レトルトパックや缶詰の商品を作られているところは多いのではないかと思います。
クイージでは、これらの加工品を「作ってみた」という一過性の商品に終わらせず、継続して製造・販売できるサイクル・仕組みを作ることが最重要であると考えています。(おかげさまで、現時点で常に在庫が僅少な程度にはサイクルを作れています)
製造設計や一定の販路確保など、上述のポイント4つを満たすことは最低限のスタートラインです。
その後の展開についても、折を見てお話できればと思います。