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食い意地張ってるジビエ屋さんの経営日記

ジビエの販売、加工品製造、利活用コンサル、処理場の運営などをする会社を経営しています。現場の視点で野生鳥獣肉について書いています。

野生動物を食肉にする事業

野生動物を「ジビエ料理」として食べるには、
1.捕獲(ハンターさんや地域住民など)
  ↓
2.食肉処理(許可を受けた施設でスタッフが作業)
  ↓
3.精肉販売(卸売りや地元消費など)
  ↓
4.料理として提供
といった、ステップを踏むことが必要です。

クイージでは、このすべてを事業領域としており(レストラン営業である「エゾシカフェ」は昨年閉店しましたが…)、ジビエ版フードチェーンの構築を業務として行っています。

そのフードチェーンの中で、事業としての課題が最も多いのは、『食肉処理』――生き物を肉に変える――事業です。現在、クイージが最も注力している事業でもあり、島根県邑智郡美郷町では「おおち山くじら生産者組合」と「美郷町」、「美郷の地域住民」などイノシシの活用に関わる多くの方々と一緒になって、食肉処理事業をビジネスとして軌道に乗せるべく、日々奮闘しています。

クイージの立ち上げ当初の事業は、野生鳥獣の肉を処理場から買い入れて、レストランなどの販売を行う『流通業』でした。野生鳥獣肉の仕入れ先である「食肉処理」の事業には3年前からチャレンジをしているところです。

食肉処理事業にチャレンジする際、ジビエの食肉化を行う事業者、販売や提供を行う方々や、行政、研究者など、多くの方から、『処理する』事業を採算に乗せることは難しいとアドバイスをいただきました。そして実際にチャレンジしたところ、皆様のおっしゃる通り、課題だらけでした。なるほど、黒字経営を続けている処理事業者は少ない、言われるとおりです。

 

今回の経営日記では、どこが野生動物を処理する事業で課題なのかを、実際に行った結果を踏まえて考えます。事業課題は現段階で解決できておらず、解決方法については様々な試行錯誤を行っていますが、解決に向けたヒントについても書いてみようと思います。

 

1.ウシやブタの処理場との比較

まず、野生動物の処理事業における課題を理解するために、ウシやブタの処理場と比較を行います。

哺乳類を食品に変えるという事業は、大きく分けて2種類の法律が関係します。

1.と場法
『と場』と呼ばれる場所で、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギを扱います。
2.食品衛生法(営業許可:食肉処理業)
いわゆる精肉店むけの営業許可ですが、ウシやブタなど「と場法で規定された以外の生き物に関して」もこちらの法律を根拠に食肉処理場で扱うことができます。

 

 

と場
ウシやブタの処理場

食肉処理場
シカやイノシシの処理場

施設の数

昭和35年 875施設
平成21年 205施設

現在、400施設(※)
処理場の規模

処理施設の処理頭数(平成21年)
ウシ年間 5,989頭/年
ブタ年間 82,760頭/年

ニホンジカ、イノシシ合計の捕獲頭数800,000頭(H22 環境省)
利用率 14%(H26 農水省資料)
処理頭数→ 112,000頭/年
処理場平均 280頭/年

原材料の受け入れ

生体(生きたまま)で、処理場に受け入れる

野外で捕殺され、『と体』で搬入される

原材料の特徴

ウシやブタについては、規格があり、ほぼその規格に従う

野生動物であり、年齢、雌雄、季節等により、小さい個体から大きな個体まで様々

経営体

行政、民間、組合等

行政、民間、組合等

 

※ウシやブタ肉を扱う一般的な精肉店を含めた食肉処理場の数は平成25年に約9500件(政府統計より)であるが、野生動物を処理する食肉処理場の数に関しては、国の統計がない。平成27年10月農水省の発表(捕獲した鳥獣の食肉活用について)によると野生鳥獣を資源として活用している事例は172件とあり、そのリストも掲載されているが、リストに含まれない小規模な野生鳥獣の食肉処理場も実際には存在する。また、農水省の発表から現在に至る期間中にも、捕獲した鳥獣を食肉活用する施設は増加している。ここでは、400施設を野生鳥獣を処理する施設であると仮定した。

 

2.野生動物の処理場の課題について

1.処理頭数が少ない

ウシやブタの食肉処理施設に関しては、施設経営の健全化を図るために統廃合が進んでおり、昭和35年には875施設あった処理施設が、平成21年には200施設程度となり、処理施設あたりの処理頭数が増えました。

個体のサイズが小さく、歩留まりが落ちるシカやイノシシも、処理場経営の健全化のため(固定費の割合を下げる)に、処理場あたりの処理頭数を増やす必要があります。ですが、処理頭数を増やす際、搬入する原材料が『と体』であるがゆえに発生する課題があります。

厚生労働省や各自治体では衛生面から考えて「捕殺後2時間以内に処理場内で内臓摘出をする」といったルールが定められていることが多く、搬入可能なエリアが限られてしまう=処理頭数を増やしにくいのです。

2.原材料のばらつきが大きい

野生動物は、季節や雌雄、年齢など捕獲された個体の状態によって、サイズや歩留まりなどの『ばらつき』が大きくなります。そのため、処理場の機械化や処理手順のマニュアル作成も個体のばらつきに合わせた整備が必要になります。また、処理された肉についても規格化しづらい(個体差が大きいため、重量や形状の一定化がしづらい)ため、利用する側(=シェフなど)による工夫が必要で、販売価格などに響いてきます。特に、イノシシに関しては、捕獲された季節や雌雄、年齢によってレストランや消費者のニーズが大きく変わるため規格や販売価格の設定は慎重に行う必要があります。

3.年間を通した作業量が安定しない

年間を通じて作業が安定すれば、それもコスト削減になります。こうした稼働率アップも相手が畜産であれば、調整する方策が考えられます。例えば、畜産業を営む会社が処理施設の運営を行い、処理頭数の確保=稼働率の確保を行う事例もあります。しかし、相手が野生動物であれば、野生動物の季節的な行動パターン(よく捕獲できる時期やほとんど捕れない時期がある)や、猟期/禁猟期といったルール、捕獲者が他の仕事と兼業であるために農繁期には捕獲数が減ってしまうといった社会的理由により、野生動物の処理場において日々の作業量を安定させるのは工夫が必要になります。

3.解決のヒント

野生動物の処理場経営は課題が多く、さまざまな角度から解決にむけた試行錯誤しているのが現状です。「こうするのが正解だ!」と提示できるほどではありませんが、少しでもヒントになるよう、取組事例をご紹介します。

1.野生動物の生体搬送

ウシやブタについては生体搬送が当たり前です。これを、野生動物の捕獲から処理施設までの搬送についても実施することで、「捕殺後2時間以内に──」といった衛生面の課題をクリアでき、処理頭数を拡大することができます。一般的な狩猟方法とは異なるため、安全確保や効率化にまだまだ課題はありますが、年間を通した作業量の確保にもつながります。

また、搬送後の処理に関しても、専門家が適切に行うことができるので高品質な食肉処理が可能になります。

エゾシカの場合、生体搬送後一時的に飼育することで肉質の改善や原材料のばらつきを小さくするという効果もあります。(イノシシでは一時的な飼育は行っておりません。)

島根県美郷町では、10年以上前からイノシシの生体搬送を実施しています。美郷町の取り組みを見せてもらう中で、「美郷町の生体搬送の仕組みであれば、食肉処理事業の課題を解決し、事業として成立するかもしれない」と感じたこと……実は、これが野生鳥獣肉の流通のみを行っていたクイージが処理事業に手を伸ばすきっかけです。

2.加工することで、原材料のばらつきを目立たなくする。

個体によるばらつきを全くなくすのはウシやブタでも難しいところですし、ましてシカやイノシシについてやろうとするのは無謀です。解決策としては、逆にばらつきを歓迎してくれるお客様──季節変化や個体の大きさの違いなども野生鳥獣料理の楽しみの一つであると考えてもらえる取引先や消費者──を増やすというのが、実は一番の近道です。

それでもやはり食材としての使いやすさのためには、ある程度「ばらつきを吸収する」努力は必要です。この課題について、クイージでは、食肉加工を行うことで、なるべく目立たなくしています。加工時にトリミングや整形を行えるスライスやミンチ、ハンバーガーのパティといった商品に加工することで、個体のばらつきを吸収し、より使いやすいお肉として提供する努力をしています。また、平成28年2月に製造を開始した「イノシシ缶詰」は、原材料のばらつきを「調理」によって目立たなくする方策のひとつです。

 

現在、日本において野生動物の食肉処理で生計を立てている事業者はほとんどありません。私は、先に述べたような取り組みを推し進め、課題を解決し、野生動物を食肉にする事業を〈継続可能な事業〉として成立させたいと考えています。

もちろん、まだまだ越えるべきハードルは多く、次から次へと課題がわいてきます。しかし、解決へ向けてのアイデアはいくつもありますし、幸いなことに一緒に取り組んでくれる仲間(地域の皆様、アドバイスをくださるシェフや専門家の先生方と弊社スタッフの面々)にも恵まれ、決して不可能な道ではなくなってきています。

野生動物の食肉処理を事業として成立させ、利活用全体のチェーンがまわりつづけることこそが、野生動物と人間の関係を適切に保ち、共栄・共存できる社会づくりのキーポイントになるのではないでしょうか。

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