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食い意地張ってるジビエ屋さんの経営日記

ジビエの販売、加工品製造、利活用コンサル、処理場の運営などをする会社を経営しています。現場の視点で野生鳥獣肉について書いています。

生肉を食べるのはやめた方がいい理由

先日もシカの刺身が大手の報道機関より紹介されました(非常に好意的に...絶品だそうです)。

 未だに、シカの刺身を提供する飲食店は多いのですが、SNS等でも『問題じゃないの?』と指摘する声がすぐに挙がるようになってきていて、消費者の認識が変わってきていることを感じます。

今回は経営日記ではありませんが、シカ肉やイノシシ肉の生産・流通にかかわる企業として、なぜ生肉を食べるのはやめた方がいいのかを話したいと思います。

 

シカ肉の生食は法律で禁止されているか?

法律(食品衛生法やそれに基づく規格基準など)でシカを生で食べることは禁止されていません。そもそも、国産のシカやイノシシの肉は一般的な肉と比較して流通量がものすごく少なく、平成26年に厚生労働省から出されたガイドラインの中に「生食はやめましょうね」と記載されはじめたばかりで、法整備はまだまだこれからといったところです。

シカに比べて流通量の多いウシですら、レバーの生食が法律で禁止されたされたのも最近ですし、今後法整備が進むのは...だいぶ先になると思います。

とはいえ、法律で禁止されていないから、シカの生食はOKっていうのは大きな問題です。

シカ肉を販売しているWEBサイトの中には、『生食は法律で禁止されたので、自己責任で食べて下さい。』なんて書かれているところもあります。

シカ肉の生食は「法律で禁止されているわけではない」ので、そもそも間違っていますが、それよりも「販売業者が自己責任という名のもとに生食をすすめる」のはもっと間違っています。

 

シカの生食の何がリスクなのか?

シカの刺身を出している店や食べている方々に聞くと「今までに、何も問題が起こったことがないから」という理由で食べているとのこと。今までたまたま問題が起こらなかったからといって、生食OKな理由にはなりません。
では、生食の何がリスクなのでしょうか?

E型肝炎

日本の野生シカにウイルスがいることは非常に少ないとされていますが、実際に加熱不十分な野生シカの肉を食べた方に感染し、直接伝播した例があります。

本来は、ブタに多いのがE型肝炎ウイルスです。日本の野生シカにウイルスがいることは非常に少ないとされていますが、実際に加熱不十分な野生シカの肉を食べた方に感染し、直接伝播した例があります。※なお、ブタよりずっと少ないのですが、イノシシもE型肝炎ウイルスをもっていることがあります。

予防策は、、、加熱です。

腸管出血性大腸菌感染症

聞きなれない言葉ですが、O157といえば、ニュースでも見ることが多いのではないでしょうか?シカ腸内の大腸菌が肉についてしまって、それがそのまま流通することがあり得ます。以前、牛肉の生食で事故がありましたが、これもウシ腸内の大腸菌が肉についてしまい、加熱不十分で人間が食べたことによって感染が広がった例です。

シカの腸内にも腸管出血性大腸菌はいます。

予防策は、、、加熱です。 

 

そのほかにも、サルモネラ菌や寄生虫など、怖いものが入っていることがあります。ただ、今判明している怖いものは、すべて十分な加熱で安全に食べることができます。

 

実際の野生鳥獣の解体処理について

手前味噌で大変恐縮なのですが、弊社が取り扱っている野生鳥獣肉の処理技術は国内でもトップクラスに高いと確信しています。

とはいえ、まだまだウシやブタの解体処理技術と比較すると改善点だらけです。

ウシやブタの技術者が扱う処理頭数は野生鳥獣の技術者と比べて格段に多く、そのため技術も高く、いつも勉強させてもらっています。また、ウシやブタの処理には必ず専門家である獣医師のチェックが一頭毎に入ります。野生動物の病気については分かっていないことも多く、何らかの異常を感じた場合には、すぐに獣医師など専門家に相談・確認をしてもらっています。しかし、さすがに一頭毎のチェックは行えません。

ヘッドランプをつけて、枝肉についた異物(毛とか泥とか)を取り除く。スライスした肉をライトに透かして、残ってしまった異物がないことを確認する。確認の記録をつけて、処理技術の改善に努める……ということも日々努力していますが、まだまだ十分ではありません。

先に挙げたリスクの中で特に注意したいのは、腸管出血性大腸菌。ウシやブタなど、高い技術で処理された肉にも大腸菌がつくことがあります。野生鳥獣肉を処理するにあたって、もちろん努力はしているのですが、シカ肉やイノシシ肉にも大腸菌がついてしまうリスクがある……というのが正直なところです。

食品を扱うものとして(食品等事業者)として

処理場を運営するにあたって、もっとも関係の深い法律は食品衛生法です。その中で、最も意識している箇所は、第三条第一項です。

食品等事業者は、その採取し、製造し、輸入し、加工し、調理し、貯蔵し、運搬し、販売し、不特定若しくは多数の者に授与し、又は営業上使用する食品、添加物、器具又は容器包装について、自らの責任においてそれらの安全性を確保するため、販売食品等の安全性の確保に係る知識及び技術の習得、販売食品等の原材料の安全性の確保、販売食品等の自主検査の実施その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

(一部抜粋)

 

野生鳥獣肉を扱い、経営を成立させるためには、獣医師の常駐なんてことはちょっと無理です。それでもできる限りの安心と安全な食肉を提供することが求められます。

専門家を雇えない現状では、自分たちがもっとできるようにならなくてはいけません。獣医師ほどではないにしても、動物の疾病に関する知識や、地域環境の特性も知らなくてはいけません。そのためには動物と食品の接点である事業者がもっと勉強していことが重要です。

もちろん、技術習得の限界もあり、それでも出てきてしまうリスクについては、販売先や消費者に適切にわかりやすく伝えることをしていく必要があるのではないかと思っています。

お話したような、大腸菌、肝炎ウイルスをはじめ、サルモネラ菌や寄生虫など、生のお肉には怖いものが入っていることがあります。しかし、これらはすべて十分な加熱によって対処できるものです。
美味しい食肉であることはもちろんですが、大前提として安心・安全に食事を楽しむ……ということが何よりも大切なのではないでしょうか。